化学合成油について

ディーラーでしかエンジンオイルを交換しないという方はご存知ないかもしれませんが、カー用品店にいくと、エンジンオイルの売り場では、「化学合成」や「全合成」などというものを見かけると思います。

 

値段が高い分、化学合成油のほうが性能が良いオイルだと思ってしまうこともあるかもしれません。

 

化学合成油の方が優れているという話は本当に多いのですが、私はなかなか理解できませんでした。確かに性能に関係はありますが、化学合成油や全合成油が、鉱物油よりもいいとは限りません。

 

エンジンオイルは、ベースオイルと、添加剤を合わせることによって成り立っています。

 

 

 

 

 

ベースオイルというのは読んで字のごとく、ベースとなるオイルのことです。

 

添加剤とは、エンジンに入れるオイルの性質を調整するものです。例えば、エンジンオイルはエンジンの中を循環していますが、循環しているうちに泡立ってしまうことがあります。

 

泡立ってしまうと、エンジンオイルが本来の能力を発揮できません。
ですので、泡立ちにくくするために、消泡剤というものを添加して、泡立ちにくくしています。

 

オイルに添加する添加剤は、消泡剤だけとは限りませんが、エンジンオイルがエンジンの中でいい仕事をしてくれるよう、様々な添加剤を適量配合されて、エンジンオイルが作られます。

 

また、添加剤を入れる前のベースとなるベースオイルの性能にも違いがあり、どんなベースオイルを使って、どんな添加剤を入れて作るのかはオイルメーカーによって異なります。

 

また、市販されているオイルをみても、どんな添加剤がどの程度入っているのか、記載されているということは、まず無いでしょう。ですので、どのオイルがどんな性能なのか、数値として見ることは基本的にはできません。

 

オイルメーカーは、ベースオイルと添加剤のコスト、性能、相性などを研究し、独自の配合でエンジンオイルを作っているので、配合の種類や割合などは、他社に知られたくはないですし、エンジンオイルの性能の基準は、基本的には、規格から判断します。

 

粘度の規格について知りたい方は、本サイト内エンジンオイルの規格 「SAE」のページにて解説しています。

 

グレードの規格について知りたい方は、本サイト内エンジンオイルの規格 「API」のページにて解説しています。

 

ただ、規格から判断できることは、エンジンオイルの新品時の性能であるということです。

 

実際にエンジンにエンジンオイルを使用していく上では、その性能をどこまで維持できるかということも大きなポイントになってきます。

 

そこでまず重要なのが、ベースオイルの性能+添加剤の性能=エンジンオイルの性能であるということです。

 

エンジンオイルの劣化の仕方は様々です。
エンジンを使用する条件が、車を使う人の使い方によって大きく違うため、エンジンオイルの劣化の仕方が大きく変わってきます。

 

例えば、デコボコした道ばかり走る人は、車の揺れも大きく、エンジンも揺れるために、エンジン内のオイルの泡立ちが多くなってしまうため、消泡剤の劣化が早くなるでしょうし、

 

一度に少ししか車を走らせない人は、エンジンが温まらず、エンジン内に混入した空気中の水分がエンジンオイル内に溶けこみ、水分がオイルを酸化させてしまい、オイル自体の劣化が早くなるという場合もあるでしょう。

 

ただし、ほとんどの場合は、何かしらの添加剤が先に劣化します。ベースオイルの弱点を補うように、添加剤が配合されている場合が多いので、添加剤が劣化してしまえば、エンジンオイルの性能は、ベースオイルの性能に依存します。

 

ですので、いいベースオイルを使って作られたエンジンオイルが、耐久性の高いエンジンオイルであるといってもいいでしょう。

 

ただし、添加剤が劣化していないうちは、鉱物油であろうと、化学合成油であろうと、エンジンオイルの性能はどちらがいいとは言えない。というのが私の考えです。

 

 

化学合成油とは

 

化学合成油とは何なのかというと、ベースオイルの種類のことです。

 

ベースオイルは、APIによって5グループに分けられおり、グループ毎に、その製法や、性能、成分の含まられる割合の違いや、人に対しての発がん性の有無などが違ってきます。

 

この5グループに分けられたベースオイルのうち、どのオイルをメインに使用しているのかによって、鉱物油なのか、化学合成油なのかが決まります。

 

ベースオイルのみの状態においては、化学合成油の方が優れている点が多いです(後に解説します)

 

がしかし、注意しておきたいのは、エンジンオイルは、あくまでもベースオイルと添加剤が合わさることで性能が決まるということです。

 

鉱物油であっても、化学合成油であっても、添加剤が加わることで、性能は変わってきますので、添加剤が劣化する前の段階においては、鉱物油の方が化学合成油に勝っているものもあります。

 

 

 

ベースオイルの作られ方

 

ベースオイルは、グループⅠ~Ⅳまでは原油から作られています。原油は、まず、常圧蒸留という方法で、様々なオイルに分けられます。

 

 原油 → 重質油 → 重質軽油 → 軽油 → 灯油 → ナフサ → LPガス

 

(正確にはもっと様々な工程を経ますが、ややこしいし、くるまにゅ管理人も完全にはわかりませんので割愛します)

 

この、常圧蒸留の過程で出来た重質油から、不純物を取り除いていったものが、グループⅠ~Ⅲに分類される、エンジンオイル用のベースオイルであり、鉱物油といいます。

 

ただし、グループⅢのベースオイルを使用したエンジンオイルをめぐって、CASTROL社が勝訴したことから、グループⅢに関しては化学合成と言ってもいいことになりました。

 

常圧蒸留の過程で出来た、ナフサを分解し、エチレンにして重合させると、PAO(ポリ・アルファ・オレフィン)ができます。これがグループⅣに分類されるベースオイルであり、化学合成油といいます。

 

上記以外の全て、例えば植物油などから作られるベースオイルがグループⅤに分類されています。

 

 

ベースオイルのグループ

 

グループ

原材料

原油 → 重質油

原油 → 重質油

原油 → 重質油

原油 → ナフサ → エチレン

左記以外のもの(例:植物油など)

精製方法

溶剤精製

水素化 処理

水素化 分解

重合 合成

 

種類 分類など

鉱物油

 

(石油系炭化水素)

高度精製基油

(石油系炭化水素)

高粘度指数基油

 

(石油系炭化水素)

 

 VHVI

(Very High Viscosity Index)

化学合成油

 

(合成炭化水素)

 

PAO

(ポリ アルファ オレフィン)

化学合成油

 

(合成炭化水素)

 

エステル

 表示

鉱物油

ミネラル

高度精製鉱物油

ミネラル 

合成油

シンセティック 

化学合成油  

シンセティック

化学合成油

シンセティック 

粘度指数

80~120

80~120

120以上

140前後

飽和炭化水素分

90%未満

90%以上

90%以上

ほぼ100%

硫黄分

0.03%超え

0.03%以下

0.03%以下

ほぼ0

 

 

●グループⅠ~Ⅱ
原油を蒸留してできた重質油から不純物を取り除いて作られる、鉱物油です。

 

不純物が多く残っていることもあって、分子の大きさが不均等で、大きめになっているので、分子間に隙間が出来やすく、空気を含みやすいことや、飽和炭化水素分が他のグループに比べて低い(といっても90%以上)ので酸化しやすいです。

 

また、粘度指数が低い(80~120)ため、温度の変化による粘度の変化が大きいです。

 

古いエンジンや、摩耗によってクリアランスが広くなってしまったエンジンには、分子が大きい分、有利に働く場合があります。

 

●グループⅢ  VHVI(Very High Viscosity Index)
原油を蒸留してできた重質油から不純物を取り除き、更に水素化分解という処理をして不純物を取り除いた鉱物油です。

 

CASTROL社がこのグループⅢのベースオイルを使用したエンジンオイルをめぐって勝訴したことから、鉱物油でありながら、化学合成油と言っても良いことになりました。

 

飽和炭化水素分がグループⅡと同じ~少し高いので、グループⅡのベースオイルよりかは酸化しにくく、粘度指数が120以上ということで、温度による粘度変化が少なく、グループⅣに近い性能を持っています。

 

グループⅡと比較すると高価ですが、「 グループⅣ+安価な添加剤 」よりは、「 グループⅢ+高価な添加剤 」の方がいいエンジンオイルができるようです。

 

近年、カー用品店の店頭に並んでいる化学合成油や全合成油と表示されたエンジンオイルのうち、比較的安い価格のものの大半がこのグループⅢのベースオイルを使用したものです。

 

 

●グループⅣ  PAO(ポリ アルファ オレフィン)
原油を蒸留してできたナフサを分解しエチレンにし、重合することで作られる、化学合成油です。

 

飽和炭化水素分がほぼ100%なので、酸化しにくく、長持ちします。また、高い粘度指数にすることができるため、温度の変化に対する粘度の変化が非常に少ないです。

 

分子の大きさが小さく、大きさにバラつきがないため、性能も安定させることができるというメリットがあります。

 

他のオイルがシールと言われるエンジン内のつなぎ目のような部分をやわらかくして膨張させてしまう特性があるのに対し、このオイルはシールを固く収縮してしまう特性があります。

 

また分子が小さいため、収縮したシールの隙間からオイルがもれてしまうことがあります。(そういったエンジンの場合には鉱物油を使用することでオイルもれを直すことができる場合もあります。)

 

また、あまりに古い車に入れると、シール部の材質がこのグループⅣのオイルに対応できておらず、オイルもれを起こす可能性が高いというデメリットがあります。(そのような経緯から、1990年代に、メーカーが材料置換しました。よって、90年代以降の車ならほとんど問題なさそうですが、確証はありません。)

 

最大のデメリットは価格です。高いです。

 

 

●グループⅤ
上記以外のベースオイルです。代表的なものに、エステル(植物油)系があります。

 

エステル系は、卓越した潤滑性と耐熱性を持っていますが、とても酸化しやすく、長持ちしないというデメリットを持っており、値段も非常に高価です。

 

性能は高いが、すぐ交換が必要ということで、レースなどに使われます。