エンジンの中では
車を動かす為には、動力源が必要です。
車の動力源のほとんどは、エンジンですね。このエンジンの中で、どういうことをして力を生み出しているか。それを理解することで、エンジンに優しい車の使い方を考えようというのが今回の趣旨です。
エンジンの中には燃焼室という部屋が、いくつかあり、その中で、電気で作った火花や、熱線によって燃料と空気に着火させ、燃焼させています。
この燃焼時に、燃焼室内の圧力が上がって、部屋のドアのようなもの(ピストンという部品)を押します。この、押す力を使って、回転する力に変換しています。
風車に息を吹きかけると回りますよね。この息を吹きかける部分を、燃料と空気を燃やすことで得た燃焼ガスで行っているという訳です。
風車の羽が、回りにくい時には、より多くの息を吹きかけなくてはいけないし、スムーズに回っている時にもう少しだけ回したい時は、少し息を吹きかければいいですよね。
エンジンでも同じことが言えて、
停止している車を発進させようとして、重たい車によって地面に押さえつけられているタイヤを回そうとしたら、より多くの燃焼が必要になります。
時速30㎞から40㎞/hに加速したい時には、すでに回転しているタイヤをもう少し速く回したいので、少し燃焼を増やせば良いということになります。
燃焼の回数は回転数
たくさん燃焼することで、より多くの回転する力が得られるということは分かっていただけたかと思います。
では今車のエンジン内でたくさん燃焼している時なのか、少ししか燃焼していない時なのか、全く燃焼していない時なのか、ドライバーが判断するためには、エンジンの回転数を見ればいいのです。
エンジンが多く回転していれば、燃焼の回数も多いということになります。厳密には、回転が下がる時には燃焼回数は少ないのですが、それについてはまたあとで説明します。
ちなみに、rpmというのは、回転数を表していて、1分間に何回エンジンが回っているのか、という意味です。
画像の針が指しているのはおよそ 0.7 の位置ですね。そしてこのメーターには×1000rpm と書かれていますね。つまり 0.7×1000=700rpm であるということがわかります。
700rpm ということは、1分間で 700 回転 しているよということになります。
この回転数が多いほど、エンジンの中では多くの燃焼が行われているということになります。
ここまでは、多くのドライバーが感覚的に理解できているかもしれませんが、この先はもう少し踏み込んだことについて考えていきます。
燃料と空気と燃焼の関係
回転数が多いほど燃焼の回数も多く、その分回転する力もたくさん得られることはわかっていただけたと思います。
では、燃焼の回数が多くなるということは、それに必要な空気と燃料の量も、増やさないといけないですよね。もちろん、エンジンはその辺のことは自動で制御して、空気と燃料の量は増やしてくれますが。
では、5秒間の間に、100回燃焼した時に必要な空気が12、燃料が1だったとしましょう。
同じように、5秒間に、500回燃焼すると、必要な空気と燃料はいくつになると思いますか?正確な答えがある問題ではありませんが、単純に5倍して、空気が60、燃料が5、とはいかないのです。
みなさん理科の実験や料理などでバーナーを使ったことありますか?
バーナーはガスと空気を燃焼させるものですが、空気の量を調節すると炎の色が変わります。
空気が少ない時には赤だった炎の色が、空気を多くすると青になりますね。青い炎の方が、温度も高く、燃えきれなかったガスがススとなることもありません。
燃料に対して空気の量がちょうどよくなって、ガスが燃えきった(に近い)状態になっています。つまりあれは、燃焼状態を良くしているのです。
というわけで、燃焼状態がよくなると、燃料に対して空気の量が多くなるんです。
ただし、バーナーの場合でもそうですが、空気が多すぎると失火しちゃいますよね。エンジンの場合でも、空気が多すぎて点火しようとした時、点火できないなどの理由から、
一番理想的な比率は、
空気 14.7 : 燃料 1
となっており、この燃料と空気の比率のことを 「空燃比」 といいます。
空燃比が 14.7 : 1 に近づくほど、良い燃焼をしていることになり、この理想空燃比に近づくほど、燃焼時に得られる力も大きくなり、必要な燃料も少なくなるということです。
理論上では、この割合の時、燃料が完全に燃焼することから、完全燃焼状態であると言われたりします。ただし、常に理想空燃比で完全燃焼させることは不可能なんです。
空気の量は温度によって変化します。温まったエンジンルームの中を通ってきた空気と、冷えたままの空気とでは、同じように取り込んでも、質量が変わってきます。
また、燃料も、 1噴射するだけでいいかと言うと、そういうわけにもいきません。燃焼室が冷えていると、うまく気化できず、燃焼できないことがあるため、多めに噴射してきちんと点火できるように点火したり、温まりすぎて着火しやすくなった燃焼室に多めに噴射して燃焼室を冷やすことで誤発火を防いだりしています。
もちろん、吸い込む空気の量や温度を測ったり、排気ガスの温度を測って、エンジンを制御しているエンジンコンピューターによって、ある程度の空気の量、燃料の量は調節されます。
例えばドライバーが急に底まで踏み切るようなアクセル操作をすると、空気を取り込む配管の途中にあるスロットルバルブという弁が一気に開き、取り込む空気の量が突然多くなります。
突然多く取り込まれる空気に対して、燃料が多く必要になった場合には、現在の各部で測定した温度や、取り込んだ空気の量などを測りつつエンジンコンピューターが燃料の量を調整しています。
ただし、空気を多く取り込んで理想的な空燃比に近づけるようにしてしまうと、点火したいタイミングよりも速く点火してしてまったり、燃料が少ないせいで、点火出来ずにそのまま排気されてしまうことがあるんです。
こうなってしまっては、本来の力を得ることはできないどころか、予定よりも速く点火してしまった場合には、燃焼室内で変なタイミングで燃焼が起きて、負荷がかかります(ノッキングといいます)し、もしも点火できなかった場合には、完全に無駄な燃料の消費となる上に、排気のルートに燃料が送られて、排気管で燃焼が起きてしまうこともあります。
私の車でも、イグニッションコイルという点火に必要な装置が、4つ中1つ故障していて、排気管の中で燃焼してしまったことがありますが、このようなことをしていると、故障する原因になります。
という訳で、負荷が大きくなったり、燃料を捨てることにならないよう、エンジンコンピューターは、安全マージンをとった制御をしているため、なかなか理想空燃比にはならないのが現実です。
空燃比の変化
理想空燃比を維持するのは難しいことがわかって頂けたかと思いますが、この、空燃比を理想に近づけるにはどうしたらいいのかが知れれば、無駄な燃料の消費を抑えることになるというのが今回の最終目標となります。
という訳で、大まかにどう制御されているのか、暖まった状態の場合と、冷えた状態の場合をお伝えします。
エンジンが暖まった通常の状態での制御
低回転時(アイドリング時も含む)
燃料はほんの少し濃いめに制御されています。燃料が薄いと、点火できないことがあるため、低回転時にそうなってしまうと、エンジンがストップしてしまう為です。
中回転時
燃費の向上を図ったり、より力を得るために、完全燃焼させたいので、燃料を薄めにしています。
高回転時
燃料を濃いめに噴射します。空気が勢いよく入ってきてしまうということもあるのですが、燃焼回数も多いですし、高温になりがちです。燃料を多めに噴射することで冷却する効果もあるため、濃いめの噴射になります。
エンジンをかけたばかりのエンジンが冷えた状態の時
基本的には温まった時と変わらない制御になりますが、全体的に燃料が濃いめ(多め)に噴射されます。
なぜなら、燃焼室内の温度が低く燃料が気化しにくく燃えにくいことや、エンジンルームが暖まっていないことから入ってくる空気の温度も低く、空気の質量が多い為、多めの燃料が必要となります。
また、冷えている場合であろうと、温まった場合であろうと、急にベタ踏みにするようなアクセル操作をした時は、濃いめに燃料を噴射します。ざっくりですが、ここまでが、簡単な制御のされ方についての説明となります。
と、ここでひとつ考えてほしいのは、加速時に、低回転で燃料を濃く吹いているのと、中回転で燃料を薄く吹いているのでは、どちらが燃費がいいのか?という疑問です。
燃焼回数を抑えるか、燃焼状態をよくするか
最低限の加速が行える範囲で、ゆ~っくり加速できる程度にしかエンジンの回転を上げない運転がいいのか、
ある程度素早く加速できるように回転数を上げた方がいいのか、どっちがいいの?ということです。
素早く、したいだけ加速する=エンジンの回転が上がるのと、ゆったり加速する=エンジンの回転を低回転に抑えるのを比較すると、回転を上げる方が、中回転でのエンジン制御は理想空燃比に近づく分、エンジン内の未燃焼ガスが減り、エンジンに優しいでしょう。
回転を上げない方が、燃焼回数が減って、使用する燃料が減ることから、一見、燃費がよくなりそうに思いますが、燃焼状態がよくないため、一度の燃焼で得られる力は弱く、未燃焼ガスやススの発生が増える傾向にあるため、エンジンには優しくないことが考えられます。
かといって、回転をあげてやろうとして急なアクセル操作では、急な空気量増加に伴った、燃料の過剰な噴射で、燃焼状態はよくありません。
以上のようなことから、加速したい時にはじんわりとある程度、踏み込んで、回転数をある程度上げてやったほうが、燃焼状態のいい時間が増え、結果的にエンジンにとっても、優しい制御となります。
低回転の方が燃焼回数が少ないから燃料を使用しない、というのはあながち間違えではありませんが、必ずしもそうであるとも限りません。
例えば、マニュアル車や、オートマのマニュアルモードのような機能を使って回転数を抑えていると、燃料を濃く吹くだけで、燃焼状態が悪く、まともな加速ができず、かえって余計に燃料を使用してしまうこともあります。
また、燃費にいいからといって、低回転だけで走っていると、常に燃料を濃く吹いているために、不完全燃焼状態が続いてしまい、エンジンの中で燃えきらなかった燃料が、未燃焼ガスやススとなって、エンジンオイルに溶け込んでしまいます。
エンジンオイルに未燃焼ガスやススが溶け込むと、エンジンオイルの劣化を早めることになります。
まとめと私見
普段燃費を気にしてゆっくりアクセルを踏んで、ゆっくり加速しているという方も、たまにはエンジンを中回転まで回して、エンジン内にたまった燃焼状態のよくない雰囲気を一度燃焼させてすっきりさせるというのが、大事になると思います。
これをしないと、常に濃いめの燃料で安全に燃焼させる、つまり不完全燃焼にしてしまっているため、未燃焼ガスの雰囲気に晒されているため、調子が悪くなりやすいと考えられます。
というのも、私の車は古いですが、燃費をなるべく抑えるために、回転を抑えて燃焼回数を減らしてやろうなどと考え、回転数を抑えた運転をしていた時期が2年間ほどありました。
ある時、燃費は悪化してもいいので、エンジンに優しい走りにしようと、燃焼回数ではなく燃焼状態を意識して、ある程度回転を上げた走りに変えました。
すると、燃焼状態がよくなる恩恵か、燃費も向上した経緯があります。気持ちよく加速できるうえに、燃費までよくなり、おまけにエンジンオイルの劣化が遅いことに気づき、良いこと尽くしだと思いました。
もちろん、全ての車において中回転までエンジンを回さないと燃焼状態が良くならないという訳ではないと思いますので、必ずそうしなさいという訳ではありません。
特に、最近の車であれば、日々進歩するエンジンの仕組みや制御によって、燃焼状態のコントロールも以前よりはうまくできるようになっているでしょう。
突然アクセルをベタ踏みにしても空気が一気に取り込まれないような制御がなされている車もあるかもしれません。
ただし、燃焼状態が悪いまま走っていると、私の車のように、燃費は悪い。加速は悪い。エンジンオイルは汚れやすい。なんて状態のまま走っていても、いいことはありません。
たまには気持ちよくエンジンを回してあげることで、元気な車を維持できるかもしれません。