エンジン摩耗最大の要因、「ドライスタート」

エンジンの中には、エンジンオイルが入っています。エンジンオイルがあることで、金属の部品間の摩擦や衝撃を抑えて、エンジンを保護しています。

 

もしもエンジンオイルが無かったら、エンジン内の部品は、エンジンが始動した途端、互いにこすれ合って削り合ってしまい、引っかかったりして、たちまち破損してしまいます。

 

 

エンジン内の金属部品の表面にエンジンオイルがほとんど付着しておらず、乾き気味、または完全に乾いている状態でエンジンをスタートする事を、
ドライスタート」 といいます。

 

何かを研磨したことがある方はご存じかもしれませんが、研磨剤と、研磨したい対象物が擦れる時、一番荒く削られるのは乾いている状態の時です。

 

例えば、包丁の研ぎ石を買ってきて、研ぎ方をみてみると、ほとんどの商品に、研ぎ石を水で濡らして研ぐように説明が書いてあります。

 

もしも研ぎ石と包丁を乾いた状態で擦ってしまうと、ザラザラとした研ぎ石に包丁が引っかかってしまい、研ぎにくく、

 

そのまま力任せに研いでしまうと、切れ味が悪くなってしまったり、刃こぼれしてしまいます。
(乾いたままやらないでくださいね。ケガの原因にもなります。)

 


海外で、ナイフを研いでいる画像ですが、丸い研ぎ石には、オイルが塗られています。

 

 

擦れ合うものの削れ具合は、
乾いている状態 > 水で濡れている状態 】となります。

 

更に言えば、
水で濡れている状態 > オイルやグリスが付いている状態 】となります。

 

ですので、乾いている状態でエンジンをスタートさせるドライスタートは、エンジン内の部品をより多く削ってしまう原因となってしまうのです。

 

削れるだけならまだしも、すべるように動く部分であれば、引っかかってそれ以上すべることができずに、部品が曲がってしまったり、折れてしまったりといった故障の原因となる場合もあります。

 

ですので、エンジン内が乾いている状態でエンジンをかけてしまうドライスタートを行ってしまうと、一気にエンジンの寿命を縮めてしまったり、壊してしまうことがあるということです。

 

とはいえ、エンジンにエンジンオイルは必ず入っています。新車でも、中古車でも、購入した時からエンジンの中に入っています。

 

それなら、乾くことなんてないんじゃないか?と思うかもしれません。

 

エンジンオイルは入っています。でも、エンジンオイルが必要な箇所に、必要な量、常に入っているとは限りません。

 

 

 

エンジンオイルは循環しています

エンジンを動かすと、その回転する力を利用して、オイルポンプというものを回して、エンジンオイルをエンジン内で循環させるようになっています。

 

エンジンが動けば、オイルポンプも一緒に動くようになっています。

 

エンジンを停止すると、オイルポンプも停止してしまうので、循環されていたエンジンオイルは循環されず、その場に残ります。残ったオイルは、重力によって徐々に下へと垂れていき、オイルを溜めておくオイルパンというエンジン最下部の部屋に溜まります。

 

再びエンジンを稼働させると、このオイルを溜めてくオイルパンという部屋からオイルポンプで吸い上げて、エンジン内の潤滑が必要な各部にエンジンオイルが供給されます。

 

全てのエンジンオイルが一番下のオイルパンという部屋に垂れていってしまう訳ではありませんが、必要な箇所に、必要な分だけ、オイルが溜まったままということでもありません。

 

エンジン内では、回転する部分や、行き来する部分など、様々な動作をする部品が詰まっています。オイルが必要な部分でも、飛び散ってすぐに乾いてしまうような場合には、たくさんオイルを吹きかけるようにしなくてはなりません。

 

エンジンの回転が速くなるほど、エンジン内では様々な部品が激しく動くようになり、オイルも飛び散りやすくなるため、回転数に応じてオイルを吹きかける量も増やす必要があります。

 

ただ、エンジンオイルを吸い上げて各部に送っているオイルポンプは、エンジンの回転数と連動して動きます。エンジンを激しく動かして、オイルがたくさん必要になってしまう部分には、エンジンを高回転まで回すほど、たくさんオイルが吹き付けられるようになっています。

 

つまり、激しくエンジンを動かした時には、たくさんオイルも循環するということです。

 

ただし、エンジンを停止すると、エンジン内で循環していたエンジンオイルの流れは止まり、時間が経つに連れて下へ下へとゆっくり垂れていきます。

 

 

ですので、長時間エンジンを動かさないでいると、エンジン内では部品表面を覆っていたエンジンオイルの膜、油膜が薄くなってしまいます。

 

油膜が薄いことによって、エンジンオイルの潤滑(摩擦を減らす)効果や、燃焼時の熱を冷却する効果、振動や衝撃を緩和する緩衝効果が弱くなってしまいます。

 

そのような油膜の薄い状態では、擦れ合う部品表面に張られた油膜が破られてしまう、油膜切れという現象が起きやすくなってしまいます。

 

油膜切れ

 

油膜切れを起こすと、直接部品同士が擦れてしまうので、削れてしまったり、擦れ合う摩擦熱で部品が熱してしまい、溶けてしまう焼き付きという状態になってしまうことがあります。

 

焼き付きがひどいと、溶けた部品同士がくっついてしまって、動けなくなってしまった所で、動こうとする力が加わり、本来の動作ができないために、破損します。

 

また、エンジンを停止した後、長期間経ってからエンジンを再スタートする時は、下に溜まったオイルが各部に行きわたるまでには、若干の時間を要します。

 

変な例え話ですが、油がまんべんなくついていないと故障してしまう扇風機があるとします。この扇風機を動かす時に、油を垂らした場合、まんべんなく油がいきわたるためには、どのくらいの時間が必要でしょうか?

 

けっこう時間がかかると思いませんか?10秒そこらでまんべんなく行きわたるでしょうか。おそらく少なくとも1分程度は時間を要すると思います。

 

この扇風機に毎日油を垂らして使用していたら、前日の付着分があるのでさほど気にする必要はないですよね。

 

しかし、夏が終わってしばらく納戸の中に眠っていた扇風機を翌年の夏に引っ張り出してきて、最初に使用するときには、油が乾いてしまっていて壊れてしまうかもしれません。

 

エンジンオイルがエンジン内各部に行きわたるために必要な時間は、扇風機と油の話と似たようなものだと思ってください。毎日使用していれば、ドライスタートにはなりません。

 

でもいつか乾いてしまった時には、一気に壊れてしまう場合があるということです。

 

 

 

エンジンへのダメージ

エンジンオイルの性能はすごいもので、私が使用しているエンジンオイルは大したものではありませんが、ツルツルの部分に塗った場合でも、3か月以上は薄い油膜を保っていました。

 

このことからも、3か月くらい車を放置したからといって、油膜がなくなって、乾いてしまうということはないでしょう。

 

ただし、もし乾いてしまった場合には、一気に壊れてしまう恐れがあるということ、そして、乾いていないとしても、オイルが少しずつ下へと垂れてしまうことで、部品表面に張られている油膜の厚みは薄くなってしまうということには注意が必要です。

 

油膜が薄くなってしまうことで、直接部品同士が擦れ合ってしまう油膜切れを起こしやすい状態になっており、ダメージを受けやすくなってしまいます。

 

エンジンを停止してからしばらく経った状態では、エンジンオイルが行き渡っていないことによって、潤滑効果や、緩衝効果が低い状態でエンジンを動かすことになり、ダメージを受けやすいということです。

 

ですので、

 

●エンジンをかける時や、エンジンをかけてすぐの状態というのは、ダメージを受けやすい状態だということ

 

●放置した期間が長いほど、オイルが下に垂れてしまっていて、ダメージを受けやすい状態だということ

 

以上の2点を覚えておくといいと思います。

 

放置した期間が長いのに、エンジンをかけてすぐにアクセル全開にするのは、エンジンにとってすごく良くないということがわかって頂けたかと思います。(危険ですしね)

 

定期的にエンジンをかけていれば、ドライスタートは防ぐことができますが、長期間放置してしまった場合には、次の方法でダメージを減らすことができます。

 

 

 

ドライスタート時のダメージを減らすには?

エンジンをかけずにオイルを循環する

ドライスタートは、エンジンをかけた時に起こります。エンジン内の摩擦する部分で、油膜が薄くなっている、または油膜がない箇所で、発生します。

 

そこに、油膜が張られればいいので、オイルポンプを回して、エンジンオイルを循環させてやればいいので、手動でエンジンを回してしまえ。というのはなかなか難しいので、燃料を噴射しないようにし、点火しないようにして、スターターモーターの力だけでエンジンをまわしてやります。

 

どうすればいいかというと、イグニッションとフューエルのヒューズを抜いて、スターターモーターの力だけでクランキング(エンジンをまわ)します。

 

イグニッション?フューエル?ヒューズ?何それ?という方には難しいと思いますので、そんな方は次の「アイドリングで暖機する」から読み進めてください。

 

ちなみに、イグニッションとは、点火系のことで、フューエルとは燃料(の供給)のことです。ヒューズとは、本来必要な電気量より大きな電気が流れた際に、機器が故障するのを防ぐために電気の通り道を遮断するためのものです。

 

各ヒューズをとると、燃料が来ない、点火されない状態になるので、エンジンをかけようとキーを回してもエンジンのかからない状態になります。

 

この状態でエンジンをかけるためのスターターモーターをまわし、エンジンをかけずにクランキング(回)します。すると、エンジンオイルをエンジン内の各部に送るための、オイルポンプが動きます。

 

が、その前に、エアコンや車内の電気などはOFFにしておきましょう。バッテリーの負荷を減らす為です。これで、エンジンをかけようとしてみてください。エンジンオイルが各部に送り出されるはずです。
(ただし、バッテリーに大きな負担がかかるので、あまり長い時間回し続けないようにしましょう)

 

次に、ヒューズをもどし、キーをONまで回し、2~15秒ほど(フューエルポンプが作動するまで)待ちます。これをしないと、燃料が供給されない瞬間ができてしまい、よろしくないです。

 

エンジンをかけます。ここまでしたら、次の「◎アイドリングで暖機する」はしなくてもかまいません。むしろ、しない方が環境にはいいでしょう。

 

ただし、エンジンをかけずにクランキングさせることで、バッテリーに負担がかかるため、この作業をしたあとは、なるべく電装品を使用せずに車を動かしましょう。電装品をあまり使用しない状態で運転することで、バッテリーを充電できます。

 

電装品て何?という方はこちらをご覧ください。

 

アイドリングで暖機する

長時間放置してしまったあとのエンジン内の部品には、エンジンオイルの油膜があまり残っていません。下へ下へと垂れてしまったこのエンジンオイルを各部に行き渡らせる必要があります。(オイルポンプという装置でエンジン内にオイルを循環させています)

 

エンジン内の部品表面に必要な、適度な油膜が張られるまでの間は、エンジン回転数を最小限かつ一定に抑えた状態=アイドリング状態を維持することでダメージを最小限に抑えることができます。

 

ではどのくらいアイドリング状態を保てばいいのか?それは、エンジンや入れているエンジンオイルの種類、気温などによって大きく変わってきます。

 

私が私の車で感じるエンジンの調子では、気温が30℃近い夏場であれば15秒気温が0℃前後の寒冷時には2分程度かかるように感じました(エンジンからのタペット音などから判断)。これはかなり余裕をみた時間なので、実際にはそんなにかからないことも多いと思いますが、長めに見た方が安心です。

 

ただしこれは、完全に暖めるということではありません。あくまでも、ドライスタート時のダメージを軽減する措置です。