エンジンオイルの規格「SAE」

 

エンジンオイルのSAEとは、アメリカ自動車技術協会のことで、
SAEが定めている規格の数値から、粘度(オイルの固さ)をある程度判断することができます。

 

 

エンジン毎に、適切な粘度のエンジンオイルを使用することで、そのエンジンのポテンシャルを発揮することができるので、その判断材料となる数値だと思ってください。

 

基本的には、カーメーカー(TOYOTAやHONDAなど)が、どの粘度のオイルを使用するとエンジンが上手く動いてくれるか、指定しているので、その範囲内の粘度のオイルを使用します。

 

 

寒さに対して

エンジンオイルを冷やしていくと、固くなっていきます。あまり冷えすぎてしまうと、オイルが固くなりすぎてしまい、エンジン内にオイルを行き渡らせることができなくなってしまうことがあります。

 

エンジン内の必要な箇所にオイルがないと、エンジンが動かないどころか壊れてしまうこともあるので、気温の低い場所で車を使う場合には、エンジンオイルがどれだけの寒さで運用できるのか知っておく必要があるのです。

 

〇w-△△の「W」はWINTERの頭文字で、WINTER=冬での使用を想定していて、〇の数値が、低温でのオイルのやわらかさを表しています。この数値が低いほど、固くなりにくいオイルであるということになります。

 

 

熱さに対して

〇w-△△の△は、温まったオイルがどれだけの動粘度(流れるオイルの固さ)を保っていられるかを表しています。

 

エンジンオイルは温まると粘度が低下して(やわらかくなって)いきます。
ある程度まで温まってやわらかくなった状態が、エンジンにとってはベストな使用条件ですが、やわらかくなりすぎてしまうと、エンジンの性能を発揮することができなくなったり、故障の原因となります。

 

オイルがやわらかくなりすぎた場合の具体的な問題としては、

 

オイルの膜、油膜が薄くなってしまい、エンジン内の潤滑が必要な部分でうまく潤滑できずに摩耗してしまったり、油膜でふさぎたい部分をふさぎきれずに生み出した力が逃げてしまうことなどがあります。

 

 

 

シングルグレードとマルチグレード

 

エンジンオイルのSAE規格には、
現在主流のマルチグレードと、シングルグレードという2種類のSAE規格があります。

 

 

シングルグレード

 

数字のみの「SAE 30」や、冬の使用を想定した「SAE 10W」などの表示がされたもので、外気温に合わせてオイルを入れ替える必要があります。

 

地域や季節の違いによって外気温は変化しますよね。それに合わせて、オイルの入れ替えが必要になるエンジンオイルです。

 

実際にカー用品店などに並べられているエンジンオイルを見ても、近年、シングルグレードのオイルを見かけることは無く、ほとんどがマルチグレードになっています。

 

もしシングルグレードのオイルを見かけても、一般車用としては古い規格ですし、使用するとしても、日本では冬と夏では変更が必要なオイルであるということを前提に購入しなくてはなりません。

 

 

マルチグレード

 

SAE10w-30」などと表記され、季節ごとにオイルを変えなくてもいいように、低温時のエンジンオイルの固まりにくさと、高温時の固さの維持力を2つの数値であらわしています。

 

10wの部分がエンジンオイルが寒い時(冷間時)のCCS粘度(固まりにくさ)
30の部分がエンジンオイルが100℃(温間時)の時の動粘度(固さ)をあらわしています。

 

オイルの粘度は温度によって変化するので、このような規格が現在主流になっているのです。

 

 

冷間時のCCS粘度とは

 

CCS粘度とは、
)コールド
)クランキング
)シミュレーター
粘度です。

 

車のエンジン始動時には、燃料を爆発させた力を使わずに、スターター(セルモーター)の力でエンジンを動かさなくてはいけません。

 

(これは余談ですが、一部のバイクには、キックペダルというものがあり、そのペダルを文字通りキックしてエンジンをかけるものもあります。)

 

そのような外的要因によってエンジンを回すことをクランキングといいます。

 

エンジンオイルは温度によって粘度が変化するので、しばらく停止したあとのエンジン内にあるエンジンオイルの温度は外気温に左右され、外気温が低いほど粘度が高く( 固く )なってしまい、ドロドロとしていてクランキングの抵抗がになるので、エンジンがかかりにくくなってしまいます。

 

かかりにくくても何とかエンジンがかかってくれればまだしも、抵抗が大きすぎると、エンジンを始動できなくなってしまいます。

 

ですのでSAEでは、このクランキングのしやすさを検査していて、

 

エンジンオイルが何℃の時にエンジンを始動できなくなってしまう粘度(固さ)になってしまうのかを数値化したものがCCS粘度であり、それを元に、

 

外気温が何度の時に使用できるオイルなのかをクラス分けしたものがSAE冷間時の規格「SAE○○W」となるわけです。

 

実際に何℃までの寒さで運用できるのかは、下記の表を参考にしてください。

 

 

粘度・抵抗

粘度が低い・抵抗が小さい ~ 粘度が高い・抵抗が大きい

冷間時の粘度

0W

5W

10W

15W

20W

25W

対応外気温

-35℃

-30℃

-25℃

-20℃

-15℃

-10℃

 

 

規格からみる粘度や効果の違い

 

冷間時のクラス

0W5W10W15W20W25Wなど

 

温間時のクラス

2030405060など

 

 

この0Wや20の数字が大きいほど粘度が高い、つまり固いオイルということになり、
低温時と高温時の粘度の組み合わせから、オイルを選びます。

 

 

極端な3つの例

イメージしやすいよう例を3つあげます。

 

「SAE 0W20」のオイルの場合

冷間時のオイルの粘度「0W」が低いクラスなので、オイルが固まりにくく、低温時でも抵抗が小さいので、エンジンの始動性がとても良く、エンジン始動直後の各部へのオイル到達もとても速いですが、

 

高温時の粘度「20」も低いクラスなので、暖まってオイルがやわらかくなってきた段階での油膜が薄く、油膜切れがおこりやすいため、摩耗はしやすい。ということになります。

 

「SAE 25W60」のオイルの場合

冷間時のオイルの粘度「25W」が一番高いクラスなので、抵抗が大きく、エンジンがかかりにくくなってしまったり、

 

エンジン始動直後にも、エンジン内各部へのオイル到達もとても遅い為、長めの暖機をしないとオイルが行き渡らず、オイルがまだ届いていない部品に張られている油膜が薄いため、油膜切れを起こしやすいため、摩耗する可能性が高くなってしまうが、

 

暖まってきて粘度が低下してきても、高い粘度を保っているので油膜も厚く、摩耗しにくいが、抵抗も大きいのでパワーのロスや燃費も悪化するということになります。

 

「SAE 0W60」のオイルの場合

冷間時の粘度「0W」は低いクラスで、抵抗が少ないためエンジンの始動性もよく、
温間時の粘度「60」は高いクラスなので、オイルが暖まってきても粘度は高いため、
油膜が厚い為、摩耗はしにくく、一番幅広い使用環境に対応できるオイルとなります。

 

ただし、2015年現在、このようなオイルは存在せず、現実的には(2015年現在では)0W50などが一番幅広い範囲をカバーするオイルとなります。

 

このように、幅広い温度に対応できるようなオイルをワイドレンジオイルといいます。

 

性能を長く維持できるのであれば、できるだけワイドレンジなオイルを選べば、幅広い条件下でエンジンのパフォーマンスを発揮できます。

 

 

ワイドレンジオイルのデメリット

 

エンジンオイルは温度によって、粘度が変化します。冷たくなれば固くなり、暖まればやわらかくなっていきます。

 

寒い時でも固くなりにくく、そのためエンジンの始動性が良く、暖まってきても厚い油膜を確保できるワイドレンジオイルですが、広い範囲の温度に対応できるワイドレンジなオイルであるほど、添加剤の効果に頼っている場合が多いことなどから、

 

100℃までの常用域での使用環境では高性能であってもそれ以上の温度になってしまう夏の渋滞や、サーキット走行などでは、熱による粘度の低下が大きくなってしまう場合があります。

 

例えば、
SAE 0W-40のオイルと、SAE 10W-40のオイルがあったとします。

 

どちらのオイルも温間時のSAE規格の粘度のクラスは40で、
0Wの方が冷間時の始動性が良いので、
10Wのオイルよりも幅広い温度に対応できる為、

 

SAE 0Wー40の方が良いオイルに見えます。

 

また、温間時のSAE粘度は40で同じなので、温まってからの性能は同じであるかのように見えます。

 

が、この場合には100℃の時の粘度がほぼ同じというだけで、100℃を超えてからは、10Wのオイルの方が粘度が高いという場合が多いのです。

 

これは、添加剤の効果が70℃~100℃のあたりで発揮されるということや、SAEでの粘度表記が温間時の性能を100℃の場合の動粘度で表していることなどから、

 

100℃を超えての使用環境では、かえってワイドレンジでないほうがいい場合があるということです。

 

夏の渋滞を除けば、通常の使用環境において、エンジンオイルの温度が100℃を超えるようなことはほとんどの車においてほぼありませんので、過酷な使用環境でなければ、ワイドレンジなエンジンオイルを使用した方が、車にとっては良いので、

 

値段が割高なことを除けば、ワイドレンジのオイルはおすすめです。

 

ただし、サーキット走行や、夏の渋滞の中で車を運用する場合には、温間時のクラスが同じものでも、冷間時のクラスの数字が大きいオイルを選んだほうが、熱に対して強い場合が多いと知っておくといいと思います。

 

 

エンジンオイル以外のオイルについて(余談)

 

ちなみに、エンジンオイルの他にも、ミッションオイルなどのSAE規格もありますが、ミッションオイルにおける一般的な「75w-90」という規格は、エンジンオイルにおける「10wー40」などと同等だったりします。

 

なので、ミッションオイルがエンジンオイルと比べて極端に固いなどという訳ではありません。